キか」
 蟠「いや/\何か其処《そこ》らに居りはせぬ[#「ぬ」は底本では「ね」と誤記]か」
 と云われて門人二人は、「何が/\」と云いつゝ五六|間《けん》先へまいりますと、山のような真ッ黒な物がむず/\/\。
 門「やゝッ/\……やゝッ……熊だ」
 と叫びながら一同其の場を逃去りました。

  三十八

 お町は熊に助けられて山深く逃げ延びましたが、身を寄せる処は勿論、食物《くいもの》もございませんから、進退いよ/\谷《きわ》まりました。その辺《あたり》を打見ますと、樵夫《きこり》の小屋か但しは僧侶が坐禅でもいたしたのか、家の形をなして、漸《ようや》く雨露《うろ》を凌《しの》ぐぐらいの小屋があります。
 町「たとえ此の山奥で餓死《うえじに》するとも野天《のでん》で自殺は後日の物笑い、何者の住《すま》いかは知らぬが、少々お椽《えん》を拝借いたします、南無阿弥陀仏/\」
 と静かに坐を占めまして、何方《どっち》が江戸か分りませぬが、
 町「亡《な》き御両親様、此の身が此の世に出でし幼き時より、朝夕の艱難苦労《かんなんくろう》あそばしてお育て下さりました甲斐もなく、無事で亡き魂《たま》をお弔
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