oっても先生が帰って来る様子がございませんから、二人の門人は気遣いながら、名主同道にて引返してまいりますると、こは如何《いか》に、先生が樹《き》の根方《ねがた》に倒れて居ります。恟《びっく》り驚いて、
 門「やア先生が倒れて居《お》る、先生々々、何《ど》うなすった、やッこりゃ大変、先生が気絶して居る、これ名主、水を、早く/\」
 二人の介抱で蟠龍軒は漸《ようや》く心付きました。
 門「先生、お気が付きましたか」
 蟠「いや何《ど》うも飛んだ目に逢《お》うた」
 門「何うなさいました彼《あ》の女は」
 蟠「とうとう逃げられてしまった」
 門「馬鹿々々しいなア、併《しか》し先生、あの婦人は全く船中でお話のあった庄左衞門の娘お町と申す者でございましょう」
 蟠「まったくお町に相違ない、相違ないが、何《ど》うして斯様《こん》な山奥へ来て居《お》るか、それが分らぬ、併し筆蹟と云い顔形《かおかたち》といい、確かにお町に相違ない」
 門「そりゃア惜《おし》いことをしましたなア、やア先生、大層お手から血が出ているじゃア有りませんか」
 蟠「実はこれがために気絶したのじゃ」
 門「あのお町が喰付いたので
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