ョれえ書くものはねえだ、まアその形《なり》じゃア仕様がねえだ、これ婆《ばゞ》アどん、女の着るもんが有るなら出してくんろ、さア熊女、この着物を着るが宜《い》いだ」
 町「はい、有難う存じます、そのお寺と申すは余程山奥でございましょうか」
 紋「なアに、山ア一つ越すべえで、そうさ、これから十丁もあるかな」
 町「そうでございますか、私は其の山奥が大好《だいすき》でございます」
 喜「ひやア山奥が好きだてえぞ、それい/\化物だんべえ」
 町「なるたけ人の目に掛らんのが宜しいのでございます」
 田舎|殊《こと》に山間の僻村《へきそん》では別に手習師匠もござりませんので、寺の住持が片手間に教えて居ります。その住持も近頃居りませんので、お町は日々《にち/\》子供を相手にして、せい/″\仮名尽《かなづくし》や名頭《ながしら》ぐらいを指南して居ります。偶《たま》には歌などを書くことも有ります。何しろ熊女が書いたというので土地では大《おお》評判、新潟あたりへ聞えることもござります。一日《いちじつ》名主紋左衞門が寺へやってまいりまして、
 紋「ひやア御免下せえまし」
 町「これは/\名主様、ようお出でなさ
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