sそこ》え書《つ》けて見なせえ」
 猟「成程、喜右衞門どんが云わっしゃる通り、字イ書くが一番|宜《い》いだ、さア化物、字イ書けやア」
 喜「紙イ無《ね》えが、六郎どんが置いて往った筆えあるから、これで書かっせえ」
 女「私は江戸の者で」
 喜「まアそんな事は後《あと》で宜《い》いから早く字を書かっせえ」
 女「はい」
 と筆を執《と》りまして古今集の中の
    我が恋は行方も知らず果《はて》もなし
        逢ふを限りと思ふばかりぞ
 本所業平橋|際《ぎわ》某《ぼう》と書きました。
 猟「それが汝《われ》が名けえ、馬鹿に長《なげ》え名だなア」
 女「いゝえ、これは私が子供の時習いおぼえました古い歌でございます」
 猟「やア歌きゃア、そんなら汝《われ》え唄え、己《おら》ア踊るべえ」
 喜「馬鹿野郎、汝《われ》が踊るような歌とは違わア、汝《われ》イえれえ字イ書くだなア、これじゃアはア人間だんべえ、こんな字イ書くもなア己《おら》が村に無《ね》えだ、名主どんに見せべえ」
 喜右衞門が其の書いた物を持参しまして、其の村の名主に見せますと、
 名主「やアこりゃア能《い》い書《て》じゃア、喜
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