御免なせえよ、こんな時にゃア何《なん》と挨拶《あいさつ》して宜《い》いのか私にゃア分んねえ」
 藤「これは亥太郎殿、藤原喜代之助でござる、あなたの御親切で伯母も誠に宜《よ》い往生を致しました、人の寿命ばかりは何《なん》とも致し方がありません」
 亥「旦那御免なせえ、私《わっち》やア物心をおぼえて此の方《かた》、涙というものア流したことが無《ね》えんですが、いつぞや親子てえものは斯《こ》う/\いうもんだと、此方《こちら》の旦那に意見されてから、此の間親父の死んだ時にゃア思わず泣きました、今日で二度目でござんす、御免ねえ」
 とわッ/\と泣出しました。時に文治は、
 文「いつも変らぬ御親切、有難う存じます、さぞお腹《なか》が減りましたろう」
 亥「なアに、さしたる事もありません」
 文「お昼食《ちゅうじき》は何方《どちら》でやって来なすったね」
 亥「なアに昼食なんざア、実は十八里おっ通しで」
 文「やッ、それは/\昼食も喰《た》べずに十八里|日着《ひづき》とは、何《ど》うも恐入りましたなア」
 亥「云われて始めて腹が減った、そんなら森松、握飯《むすび》でも呉れや」
 森「さア大変だ、昼間
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