ゥる前兆か知らん、此の身が彼《あ》のまゝ寝ていたら、或は此の矢のためにあたら命を失ったかも知れぬ、妻の夢のため眼を覚せしところを見れば、定めしお町が八百万《やおよろず》の神々に此の身の無難を祈っているのであろう、あゝ辱《かたじけ》ない」
 人情の常として、何《なん》に付けても思い出すのは女房子でございます。
 文「あゝ危《あぶな》かった」
 と思う間もなく、また二の矢がブウンと羽響きをなして飛んで来ました。文治はハッと身を拈《ひね》り、矢の来た辺《あたり》へ眼を付けて、
 文「やア/\拙者は決して怪しい者ではないぞ、漂流いたして難儀の者、助けたまえ」
 と声を限りに手を合せて助けを乞いましたが、弓取る人は、聾《つんぼ》か但《たゞ》しは言葉の通ぜぬためか、何程手を合わして頼み入っても肯入《きゝい》れず、又も飛び来る矢勢《やせい》鋭く、殊《こと》に矢頃近くなりましたから、憫《あわ》れむべし、文治は胸のあたりを射通されて其の儘打倒れました。

  三十四

 文治は図らずも二の矢を射られて倒れたまゝ、身動きもせず様子を窺《うかゞ》って居りますると、弓を提《さ》げたる島人《しまびと》が、小石を
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