ィ》を捕《と》りますごとに、思わず、
 文「汝《おのれ》蟠龍軒、切って/\切殺しくれん」
 と大声《たいせい》に呼《よば》わりましては又我に返り、
 文「これで思いが届かねば、人と生れた甲斐もなし、蟠龍軒達者で居れよ」
 と云う折しも、木蔭《こかげ》に怪しき声ありて、「達者で居れ」という。文治は暫く四辺《あたり》を見廻しまして、
 文「さては何者か、我が哀れ果敢《はか》なき境涯を見て笑うものと見えるわい」
 と体《たい》を潜めて様子を窺《うかゞ》って居りましたが、別に怪しい様子もござりませぬ。
 文「はて、不思議なこともあるものだ、達者で居れと己《おれ》の口真似をしたのは何者か知らん、まさか夢ではあるまい」
 と段々山深く入込《いりこ》んで、彼方《あちら》此方《こちら》を尋ね廻りますると、高き樹の上に一筋の矢が刺さって居りまする。

  三十三

 文治は端《はし》なくも樹の上に征矢《そや》を認め、
 文「はて、彼処《あすこ》に矢の刺さっている処を見れば、今は人が居ないにしても、我のように漂うて来た者があるに違いない」
 と独語《ひとりごと》をいいながら其の樹に攀登《よじのぼ》り、矢を
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