お母様、ほい、もういかんか」
町「お母様ア、お母様ア」
文「これ/\お町、そう泣悲《なきかなし》んでも仕方がない、もう諦めろ」
萓「伯母様《おばさま》え、伯母様え、もう是がお別れか、伯母様え」
藤「お萓、そう呼ぶものではない、文治殿、さぞ/\御愁傷《ごしゅうしょう》でござりましょう」
文「いや永い御苦労を掛けました、あゝ何《ど》うも、思えば私《わたくし》も不孝を尽しましたなア」
お町を始め一同顔を揃《そろ》えて言葉もなく、鼻詰らして俯向《うつむ》く折から、表の方《かた》で慌《あわた》だしく、
「森松々々」
森「おうい、豊島町《としまちょう》の棟梁《とうりょう》か」
これは亥太郎《いたろう》という豊島町の棟梁でございます。
亥「おゝ亥太郎だ」
森松が立って戸を明けますると亥太郎は息急《いきせ》きながら、
亥「森松、お母様《ふくろさま》は」
森「たった今……」
亥「えッ、亡《なくな》りなすったか、道理で新しい草鞋《わらじ》が切れて変だと思った、えゝ間に合わなかったな」
森「昨日《きのう》からむずかしいから、お前さんの所へ知らせに往《い》くとな、今朝早く成田へ立
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