、その親切は千万《せんばん》辱《かたじ》けないが、まア/\此処《こゝ》へ来い、お浪や早く國藏に着物を着せてやれ、森松、國藏夫婦は何時《いつ》の間《ま》に来たのだ」
森「へえ、藤原様のおいでの少し前、いつもは蔵前の不動様へまいるんですが、今夜は御門が締りましたそうで」
文「うむ、毎夜此の通りか、寒中といい況《ま》して今夜は此の大雨に……國藏、お前の親切は千万辱けないがな、命数は人の持って生れたものじゃ、寿命ばかりは神にも仏にも自由になるものじゃアない、神様や仏様は人の苦しむのを見て悦びなさる筈《はず》はないが、人が物を頼むにも無理力《むりぢから》を入れて頼んだからって肯《き》くものではない、お前も同じ人に生れていながら、この寒空《さむぞら》に垢離《こり》など取って、万一身体に障《さわ》ったら、それこそ此の上もない不孝じゃないか、お前の親切は届いて居《お》る、もう/\止してくれよ」
四
文治は國藏夫婦の水垢離《みずごり》を諫《いさ》めて居りますると、妻のお町が泣声にて、
町「旦那様ア、お早く/\」
文「なに、お母様《っかさま》が息を…」
と病間に駈戻り、
文「お母様、
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