キと、のそり/\歩き出しましたから、其の後姿を見送り、手を合せて、
 町「あゝ有難い、辱けない」
 と熊の影の見えなくなるまで暫く休みまして、又々一丁程登って後《うしろ》を見ますと、横に熊が来て居ります。
 町「えゝ、まだお前は安心せぬか、此処《こゝ》まで来れば大丈夫じゃ、何《ど》うぞ帰って下さいよ」
 と頭を撫でて居りますと、
 猟「やア女郎《めろう》、脇へ寄れ、その熊を撃つのだ、早く/\」
 と声掛けられてお町は恟《びっく》り驚き、
 町「なゝゝゝなゝ何《なん》と仰しゃいます、この熊をお撃ちなさると、そりゃアまア惨《むご》たらしい」
 と熊の惣身《そうしん》に抱付きました。此の体《てい》を見るより猟人《かりゅうど》は益々|大音《だいおん》に、
 「汝《われ》え其処《そこ》退《の》かねえか、そんな真似をして居《お》ると共に打放《ぶっぱな》すぞ」
 町「いゝえ、この熊は私が命の恩人でございます、何《ど》うぞ助けて下さいませ、今頃熊をお取りなさいましても、左程のお徳にもなりますまい、どうぞ/\助けて下さい」
 と熊の前に立塞《たちふさ》がり、両手を合せて拝んで居りまする。

  三十二


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