チて小さくなって居りますと、件《くだん》の親熊はのそり/\とお町の前へまいりました。
 町「さては是ほど頼んでも聞分けなく、私に噛付く了簡か、そんなら斯《こ》うよ」
 と懐剣に手を掛けながらも、心の中《うち》に業平天神を祈り、どうぞ夫に逢うまではお町の一命をお助け下さいますようと、油断なく熊を見詰めて居りますと、熊は何やらお町の前へ持って来まして、又元の通り子の寝ている処へ帰りました。お町も少しは安心いたしましたが、さりとて眠ることもならず、其の儘にして居《お》ること一日二日、いよ/\熊も囓付《かみつ》く様子がありませんので大分気も落着きました。さア腹が減って堪《たま》りませぬ、ふと心付いて見ると、毎日熊が持って来ましたのは胡桃《くるみ》の実やら榧《かや》の実やら、乃至《ないし》芋のような物であります。

  三十一

 お町は余り腹が空《す》きましたから、前に積んである胡桃を取上げましたが、さア割ることが出来ませぬ、懐剣を出して割ろうかとも思いましたが、いや/\熊が見て自分を殺すと思い違い、万一の怪我でもあっては成らぬと気遣《きづか》いまして、歯に掛けて見ますけれども頓《とん》と割れ
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