オ》んで居ります。

  三十

 文治は吉藏が懴悔話を聞いて、そゞろに愛憐《あいれん》の情を起し、共に涙に暮れて居りましたが、二度目に来た剣術遣いと聞いて、
 文「待て/\確《しっ》かりしろよ、今いう二度目に来た剣術遣いの名は何《なん》というのだ、また幾人ばかりでまいったのか」
 吉「確か、今頭になっているのは大伴蟠龍軒といいました、今一人はもと医者だそうです」
 文「その名は何《なん》と申したぞ、これ/\今|一人《いちにん》の名は何と……」
 吉「あゝ苦しい、いゝゝゝ今|一人《ひとり》は確か秋田……」
 文「これ吉藏、吉藏」
 と呼べども答えはございませぬ。
 文「はて、これも縡切《ことぎ》れたか、自業自得とは云いながら二人《ににん》の舟人《ふなびと》に死別《しにわか》れ、何処《どこ》とも知れぬ海中に櫓櫂もなく、一人《ひとり》にて取残されしは何《なん》たる不運ぞ、今この吉藏が臨終《いまわ》の一言《いちごん》、海賊の頭を殺して再び其の跡を受継ぎしは大伴蟠龍軒、医者は秋田と聞くからは、こりゃ滅多には死なれぬわい、何処の島かは知らねども最早岸には一二丁、夜《よ》の明けるのを待った上、命限
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