オて居りましたが、それから直ぐ奥へまいりまして、
商「旦那え、舟人《ふなびと》たちに聞合《きゝあわ》せますと、陸《おか》と沖とは余程違ったものだそうですが、二人頼んでまいりました」
文「違うと申して幾ら呉れというのか」
商「一日|一貫文《いっかんもん》、其の代り御祝儀《ごしゅうぎ》には及びません」
文「それは/\千万お手数《てかず》であった、これ/\亭主」
亭「へえ」
文「いよ/\明日《あす》は見物に出掛ける所存だ、これは誠に少々だが、お茶代じゃ」
亭「へえ、有難う存じます、併《しか》し旦那、明日はまだ沖合が何《ど》うでございましょうかな」
商「あ、これ/\主人、旦那が往《い》こうと仰しゃるのに何《なん》だ、入らざるお世話をして、引込《ひっこ》んで居れ」
亭「へえ/\、旦那お支度をなさいまし、随分お支度を……」
と心ありげに立ち去りました。文治はそれと悟り、蛇《じゃ》の道は蛇《へび》とやら、此奴《こいつ》を楷子《はしご》にしたらお町の様子が分らぬ事もあるまい、また敵《かたき》の様子も知れるであろうと十分に心を用いて、翌日船に乗込む事に取極めましたが、これぞ文治が大難
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