ヘ手を鳴らし、
文「これ/\亭主」
亭「へえ、何御用で」
文「今出て行った客は当家へ折々泊る客か」
亭「よく見掛ける人でござりやす」
文「ふうむ、聞けば旅商人《たびあきんど》ということじゃが、渡世《とせい》は何《なん》だか知っておるか」
亭「左様、どうも能《よ》う分りませんね、旦那何かお頼みなら、まア止すが宜《よ》うござりやす」
文「ふうむ、分らぬか」
亭「へえ、どうも世間じゃア余《あんま》り好《よ》く申しやせんが、お客様ゆえ断る訳にも往《ゆ》きやせんで、お泊め申して置くとは云うものゝ、実は持余《もてあま》して居《お》るんでやす、後《あと》が恐《こお》うござりやすからなア」
文「なに、後が恐い、ふうむ何《なん》だ、恐いというのは」
亭「意趣返しが……はア今に帰るべえに、私《わし》が此処《こゝ》にいたら、又|酷《ひで》え目に逢わねえとも云われやせん、まアお気をお付けなせえまし」
文「はゝア、彼奴《あいつ》は譬《たと》えにいう護摩《ごま》の灰《はい》か、よし/\承知した」
と心の中《うち》に頷《うなず》いて思案して居ります処へ、例の旅商人が帰りまして、何か主人と話を
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