謔、や》く六日町に着しますと、松屋仙次郎《まつやせんじろう》という商人宿がございます、尋ね物をするには斯《こ》ういう宿に若《し》くはないと考えて、宿の表に立ちかゝりますと、
 下女「お早うござりやす、お寒うござりやす、只今お湯を上げやす、えゝ内の旦那どん、お客あはアお侍様だが、此間《こねえだ》見たように座敷が無《ね》えとって、グザラ[#「グザラ」に傍点]しっても困りやすのう」
 文「いや/\、皆々と同席でも大事ない」
 女「はアそうけえ、お湯へ這入《へえ》りますけえ」
 文「都合で何《ど》うでも宜《よ》い」
 女「さア此処《こけ》えお上んなせえまし、お荷物を持ってめえりやしょう」
 文「もう宜い/\……これは皆さん御免下さい、御一同お早いお着きですな」
 旅人「これは/\旦那様、さア上座《かみざ》へお坐りなせえ」
 文「何《ど》う致して、後《あと》からまいって上座《じょうざ》は恐入る、私は何分《なにぶん》にも此の寒さに耐《こた》えられないから、なるたけ囲炉裏の側へ坐らして貰いたい、今日の寒気《かんき》は又別段ですなア」
 旅「旦那様、お一人でごぜえますか」
 文「はい、連れがありました
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