「》きなせえまし」
文「いや大事ない、ひもじい時に不味《まず》い物なし、是非一飯売って貰いたい、大分《だいぶ》身体も暖まって来た」
と御飯の出来るのを待って居りますと、
老「旦那様、お飯《めし》が出来やしたが、菜《さい》は何もありませんぜ、只|玉味噌《たまみそ》の汁と大根のどぶ漬があるばかりだ」
文「何《なん》でも苦しゅうない、そんなら一飯頂かして下さい」
と文治は漸《ようよ》う飢《うえ》を凌《しの》ぎまして、
文「これ/\親父殿《おやじどの》、これは些《いさゝ》かであるが、ほんのお礼の印だ」
老「やア旦那様、こんなに頂いちゃア済まねえな」
文「どうか受納して貰いたい」
老「はい/\恐入ります、有難う存じます」
文治は支度そこ/\猟師の家を立去りまして、三俣へ二里半、八木沢《やぎさわ》の関所、荒戸峠《あらどとうげ》の上下《じょうげ》二十五丁、湯沢《ゆさわ》、関宿《せきじゅく》、塩沢《しおざわ》より二十八丁を経て、六日町へ着《ちゃく》しました。其の間《あいだ》凡《およ》そ九里何丁、道々も手掛りの様子を聞きつゝまいりますこと故、なか/\捗取《はかど》りませぬ。夕景|漸《
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