@老「はい、左様で、忰《せがれ》が只今出掛けましたがな、此の辺では猟人でなくても鉄砲が無くちゃア一夜でも寝られやアしません」
 文「何方《どちら》を向いても山ばかり、恐ろしい獣《けもの》でも来ますかな」
 老「左様さ、獣も折節《おりふし》来ますが、第一泥坊が多いので困るでがす」
 文「はゝア、そんなに盗人《ぬすびと》が来ますかな」
 老「併《しか》し私《わたくし》どもには金も衣物《きもの》もないと知って居ますから、金を取りに来やアしませんが、火打坂や二居ヶ峰あたりで、旅人を殺したり追剥をしたりしちゃア此処《こゝ》まで来て、真夜中に泊めてくれと云って時々戸を叩くでがす、さア明けねえと打毀《ぶちこわ》すぞなんて威《おど》しますからな、其の時にゃア此の鉄砲を一発やるだね」
 文「はゝア、して見ると此の辺は盗人の往来と見えますな」
 老「時々女が担《かつ》がれたり、旅人が裸体《はだか》で逃げて来るでがす」
 思わず文治は、
 文「さては其奴《そいつ》らにやられたか、えゝ残念」
 と聞いて老人、
 老「旦那様、お連れの方でもやられましたか」
 文「はい婦人を一人」
 老「道理で昨夜《ゆうべ》、曲
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