、足掛りもございませぬ。
町「あゝ、世に私ほど不幸なものはあらじ、図らずも夫文治が赦免という有難き日に親の敵《かたき》を知り、多年の欝憤《うっぷん》を霽《は》らさばやと夫と共に旅立ちして、敵討《かたきうち》の旅路《たびじ》を渡る山中にて、何《なん》の因果か神罰か、かゝる憂目《うきめ》の身となりしぞ、たとい此の身は何《ど》うなるとも夫に逢わで死すべきか」
と思わず独語《ひとりごと》した其の物音に熊は起上り、暫く四辺《あたり》を見廻して居りましたが、何思いけん、また穴の入口を目がけ、ひらりと飛上りました。
町「いや、熊が私に噛付かぬは神仏のお蔭か、但《たゞ》しは友を呼びに往《ゆ》き、帰って私を殺す気か、いよ/\噛付く様子なら、私が命のあらん限り突いて/\突殺してくれる、それまでは何事も」
と少しも体《たい》を崩さぬよう身構えて居りました。文治は其の夜二居ヶ峰《みね》の谷々まで根《こん》限り尋ねましたが、少しも足が付きませぬ。その筈でございます、雪は益々|降頻《ふりしき》り、いやが上に積りまして、足跡とても見えぬくらい、谷々は只真っ白になって少しも様子が分りませぬ。其の中《うち》に長
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