《よ》かろう」
甲「これは至極|宜《よろ》しい、宅《たく》は手狭だが、是なる者は拙者の朋友《ともだち》で、可なり宅《うち》も広いから、ちょっと一献《いっこん》飲直してお別れと致しましょう」
 と柔《やさ》しい真白な手を真黒な穢《きたな》い手で引張《ひっぱ》ったから、喜六は驚き、
喜「なにをする、お嬢様の手を引張って此の助平野郎」
甲「なに、此ん畜生」
 と又騒動が大きくなりましたから、流石《さすが》の渡邊も弱って何うする事も出来ません。打棄《うっちゃ》って密《そっ》と逃げるなどというは武家の法にないから、困却を致して居りました。すると次の間に居りました客が出て参りました。黒の羽織に藍微塵《あいみじん》の小袖を着《き》大小を差し、料理の入った折を提げて来まして、
浪人「えゝ卒爾《そつじ》ながら手前は此の隣席《りんせき》に食事を致して、只今帰ろうと存じて居《お》ると、何か御家来の少しの不調法を廉《かど》に取りまして、暴々《あら/\》しき事を申掛け、御迷惑の御様子、実は彼処《あれ》にて聞兼《きゝかね》て居りましたが、如何にも相手が悪いから、お嬢様をお連れ遊ばして嘸《さぞ》かし御迷惑でござろう
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