はものざんまい》などはございませんが、前次様は御勇気のお方だけあって、九尺柄の大身の槍をすっと繰出した時に、權六は不意を打たれ、受くるものが有りませんから左の掌《て》で、
權「むゝ」
 と受けましたが剛《ひど》い奴で、中指と無名指《くすりゆび》の間をすっと貫かれたが、其の掌で槍の柄を捕まえて、ぐッと全身の力で引きました。前次公は蹌《よろ》めいて前へ膝を突く処を、權六が血だらけの手で捕《おさ》え付け、
權「其の時は斯う捻り倒して敵を酷《ひど》え目に遇《あ》わして、尊公《あんた》を助けるより他はねえ、何うだ、敵も魂消《たまげ》るか」
 と大力《だいりき》でグックと圧《お》すから前次公も堪《た》えかねまして、
殿「權六|宥《ゆる》せ、宥せ」
 と云うは余程苦しかったと見えます。これを見るとお側に居りました川添富彌、山田金吾も驚きましたが、御側小姓の外村惣江が次の間に至り、一刀を執《と》って立上り、
惣「棄置かれん奴」
 とバラ/\/\と二人|来《きた》って權六へ組付こうとするを睨《にら》み付け、
權「寄付くと打殺《ぶっころ》すぞ」
惣「斬ってしまえ、無礼至極な奴だ、御前を何と心得る、如何《い
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