くに》へ参《めえ》りまして、十八年の長《なげ》え間|大《えか》くお世話さまでごぜえました」
富「これ/\お世話さまなんぞと云う事は有りませんよ」
權「だってお世話になったからよ」
殿「これ富彌控えて居れ、一々咎めるといかん、うん成程、武州の者で、長らく国許《くにもと》へ参って居ったか、其の方は余程力は勝れて居《お》るそうじゃの」
權「私《わし》が力は何《ど》の位あるか自分でも分りませんよ、何なら相撲でも取りましょうか」
富「これ/\上《かみ》と相撲を取るなんて」
權「だって、力が分らんと云うからさ」
殿「誠にうい奴だ、予が近くにいてくれ、予が側近くへ置け」
富「いえ、それは余り何《なん》で、此の通りの我雑《がさつ》ものを」
殿「苦しゅうない、誠に正直潔白で宜《よ》い、予が傍《そば》に居れ」
權「それは御免を願いてえもんで、私《わし》には出来ませんよ、へえ、此様《こん》な窮屈な思いをするのは御免だと初手から断ったら、白酒屋さんの、えゝ……」
殿「山川廣か」
權「あの人よ」
富「あの人よと云う事が有るかえ、上《かみ》のお言葉に背く事は出来ませんよ」
權「背くたって居《い》られませんよ」

前へ 次へ
全470ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング