六其の方は国で衆人の為めに宝物《たからもの》を打砕いた事を予も聞いておるが、感服だのう、頭《かしら》を擡《あ》げよ、面《おもて》を上げよ、これ權六、權六、如何《いかゞ》致した、何も申さん、返答をせんの」
富「はっ、これ御挨拶を/\」
權「えゝ」
富「御挨拶だよ、お言葉を下《くだ》し置かれたから御挨拶を」
權「御挨拶だって……」
 と只きょと/\して物が云えません。
殿「もっと前へ進め、遠くては話が分らん、ずっと前へ来て、大声で遠慮なく云え、頭《かしら》を上げよ」
權「上げろたって顔を見ちゃアなんねえと云うから誠に困りますなア、何うか此の儘で前の方へ押出して貰《もれ》いてえ」
小姓「此の儘押出せと、尋常《なみ》の人間より大きいから一人の手際《てぎわ》にはいかん、貴方《あなた》そら尻を押し給え」
權「さアもっと力を入れて押出すのだ」
殿「これ/\何を致す其様《そん》なことをせんでも宜しいよ、つか/\歩いてまいれ、成程立派じゃなア」
權「えゝ、まだ頭《かしら》を上げる事はなんねえか」
殿「富彌、余り厳《やか》ましく云わんが宜《い》い、窮屈にさせると却《かえ》って話が出来ん、成程立派じゃなア、
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