宜《い》いだ、其の上いろはのいの字も書くことを知らねえ者が侍《さむれえ》に成っても無駄だ」
作「それは皆|先方《むこう》さまへ申し上げてある、山川廣様というお方に貴様の身の上を話して、学問もいたしません、剣術も心得ませんが、膂力《ちから》は有ります、人が綽名《あだな》して立臼《たてうす》の權六と申し、両手で臼を持って片附けますから、あれで力は知れますと云ってあるが、其の山川廣と云うのはえらい方だ」
權「へえ、白酒屋《しろざけや》かえ」
作「山川廣(口の中《うち》にて)山川白酒と聞違えているな」
權「へえー其の方が得心で、粂野さまの御家来になるだね」
作「うん、下役《したやく》のお方だが、今度の事に就いては其の上役《うわやく》お作事奉行が来て居ますよ、有難い事だのう」
權「有難い事は有難いけんども、私《わし》ゃア無一国《むいっこく》な人間で、忌《いや》にお侍《さむれえ》へ上手を遣《つか》ったり、窮屈におっ坐《つわ》る事が出来ねえから、矢張《やっぱり》胡坐《あぐら》をかいて草臥《くたび》れゝば寝転び、腹が空《へ》ったら胡坐を掻いて、塩引の鮭《しゃけ》で茶漬を掻込《かっこ》むのが旨《うめ》え
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