此の上もない悦び事がある」
權「はい、私《わし》もお蔭で喰うにゃア困らず、彼様《あんな》心懸の宜《い》い女を嚊《かゝあ》にして、おまけに旦那様のお媒妁《なこうど》で本当は彼《あ》のお千代も忌《いや》だったろうが、仕方なしに私の嚊に成っているだアね」
作「なに否《いや》どころではない、貴様の心底を看抜《みぬ》いての上だから、人は容貌《みめ》より唯《たゞ》心じゃ、何しろ命を助けてくれた恩人だから、否応なしで」
權「併《しか》し夫婦に成って見れば、仕方なしにでも私《わし》を大事にしますよ」
作「今|此処《こゝ》で惚《のろ》けんでも宜《よ》い兎に角夫婦仲が好《よ》ければ、それ程結構な事はない、時に權六段々善い事が重なるなア」
權「然《そ》うでございます」
作「知っているかい」
權「はい、あのくらい運の宜《い》い男はねえてね、民右衞門《たみえもん》さまでございましょう、無尽《むじん》が当って直《すぐ》に村の年寄役を言付かったって」
作「いや左様《そう》じゃアない、お前だ」
權「え」
作「お前が倖倖《しあわせ》[#「倖倖」は「僥倖」の誤記か]だと云うは粂野美作守様からお抱えになりますよ、お召しだと
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