名「いえ中々|一国《いっこく》もので、少しも人に媚《こび》る念がありませんから、今日《こんにち》直《すぐ》と申す訳には参りません」
 というので、是非なく山川も一度《ひとたび》お帰りになりまして、美作守さまの御前に於《おい》て、自分が実地を践《ふ》んで、何処《どこ》に何ういう事があり、此処《こゝ》に斯ういう事があったとお物語を致し、彼《か》の權六の事に及びますと、美作守さま殊の外《ほか》御感心遊ばされて、左様な者なら一大事のお役に立とうから召抱えて宜かろうとの御意がござりましたので、山川は早速作左衞門へ係《かゝ》ってまいりました。其の頃は御領主さまのお抱えと云っては有難がったもので、作左衞門は直《すぐ》に權六を呼びに遣《つか》わし、
作「是れは權六、来たかえ、さア此方《こっち》へ入《はい》んな」
權「はい、ちょっくら上《あが》るんだが、誠に御無沙汰アしました、私《わし》も何かと忙しくってね」
作「此の間中お母《っか》さんが塩梅が悪いと云ったが、最《も》う快《よ》いかね」
權「はい、此の時候の悪いので弱え者は駄目だね、あなた何時《いつ》もお達者で結構でがす」
作「扨《さ》て權六、まア
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