祖五郎が松蔭の顔をじろりと横目で睨《ね》め上げるから、松蔭は気味悪くなり、下を向いている。
數「春部梅三郎は腰元の若江と密通して逃げたという事だったの」
梅「はい、誠に恥入った事でございます」
數「うん、それが露顕した訳でもなし、是まで勤め向《むき》も堅く、ほんの若気《わかげ》の至りで、女を連れて逐電いたしたのじゃが、未《いま》だお暇の出たわけではなし、只家出をした廉《かど》だから、お詫をして帰参の叶《かな》う時節もあろう、若江という小姓も少《ちい》さい時分から奉公をしていた者で、先年|体好《ていよ》くお暇になったとの事、是も出入りは出来ようかと思う、所でお前たちに私《わし》が問うがな、大殿様は今年はもう五十五にお成りなさる、昨今の処では御病気も大きに宜《よ》いようじゃが、どうもお身上《みじょう》が悪いので、今度の御病気は數馬決して安心せん、もしお逝去《かくれ》にでもなった時には御家督相続は誰が宜かろう、春部だの祖五郎はお暇になってゝも、代々の君恩の辱《かたじけ》ない事は忘却致すまい、君恩を有難いと考えるならば、御家督は何う致すが宜しいか少しは考えも有ろう」
祖「手前の考えでは若様は未
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