、寝ても覚めても眼の前《さき》へちらつきやして、片時も忘れる暇もねえ、併し奥を働く女で、台所へは滅多に出て来る事はありやせんが、時々台所へ出て来る時に千代の顔を見て、あゝ何うかしてと思い、幾度《いくたび》か文《ふみ》を贈っちゃア口説《くど》いただアね」
長「黙れ、其の方がどうも其の姿や顔色《がんしょく》にも愧《は》じず、千代に惚れたなどと怪《け》しからん奴だなア、乃《そこ》で手前が割ったというも本当には出来んわ、馬鹿々々しい」
權「それは貴方《あんた》、色恋の道は顔や姿のものじゃアねえ、年が違うのも、自分の醜《わる》い器量も忘れてしまって、お千代へばかり念をかけて、眠《ね》ることも出来ず、毎晩夢にまで見るような訳で、是程|私《わし》が方で思って文を附けても、丸めて棄てられちゃア口惜《くや》しかろうじゃアござえやんせんか」
長「なんだ……お父《とっ》さまの前を愧《は》じもせんで怪《け》しからん事をいう奴だ」
と口には云えど、是れは長助がお千代を口説いても弾《はじ》かれ、文を贈っても返事を遣《よこ》さんで恥《はず》かしめられたのが口惜しいから、自分が皿を毀したんであります。罪なきお千代に
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