で控えて居れ」
權「いや控えては居《い》られやせん、よく考えて見れば見る程、あゝ悪い事をしたと私《わし》ゃア思いやした」
長「何を然《そ》う思った」
權「大殿様皿を割ったのは此の權六でがす」
作「え……其の方は何うして割った」
權「へえ誠に不調法で」
作「不調法だって、其の方は台所にばかり居て、夜は其の方の部屋へまいって寝るのみで、蔵前の道具係の所などへ参る身の上でない其の方が何うして割った」
權「先刻《さっき》箱の棧が剥《と》れたから、どうか繕《つくろ》ってくんろてえから、糊をもって私《わし》が繕ろうと思って、皿の傍へ参《めえ》ったのが事の始まりでごぜえます」
千「權六さん、お前さんが割ったなどと……」
權「えーい黙っていろ」
丹「誠に有難うごぜえます、私《わし》は此の千代さんの家《うち》の年来の家来筋で、丹治と云う者で、成程是れは此の人が割ったかも知れねえ、割りそうな顔付だ」
權「黙って居なせえ、お前《めえ》らの知った事じゃアない、えゝ殿様、誠に羞《はず》かしい事だが、此の千代が御当家《こちら》へ奉公に参《めえ》った其の時から、私《わし》は千代に惚れたの惚れねえのと云うのじゃアねえ
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