掛るから權六は怪しんですうッと立上り、
權「いやア」
 と突然《だしぬけ》に彼《か》の侍の後《うしろ》から組附いた時には、身体《しんたい》も痺《しび》れ息も止《とま》るようですから、侍は驚きまして、
曲者「放せ」
權「いや放さねえ、怪しい奴だ、何者だ、何故犬う斬った、さ何者だか名前を云え」
曲「手前たちに名前を申すような者じゃアねえ、其処《そこ》放せ」
權「放さねえ、さ役所へ行《ゆ》け」
曲「役所へ行《ゆ》くような者《もん》じゃア無《ね》え」
權「黙れ、頭巾を深く被りやアがって、大小を差して怪しい奴だ、此のまア御寝所《ごしんじょ》近《ちけ》え奥庭へ這入りやアがって、殊《こと》に大切な犬を斬ってしまやアがって、さ汝《われ》何故犬を斬った」
曲「何故斬った、此の犬は己《おれ》に咬付《かみつ》いたから、ムヽ咬付かれちゃアならんから斬ったが何うした」
權「黙れ、己《おれ》ア見ていたぞ、咬付きもしねえ犬を斬るには何か理由《わけ》があるだろう、云わなければ汝《うぬ》絞殺《しめころ》すが何うだ」
曲「ムヽせつないから放せ」
權「放せたって容易にア放さねえ、さ歩《あゆ》べ、え行《い》かねえか」
 と大
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