しばら》く視て居《い》る。最前から森下の植込《うえご》みの蔭に腕を組んで様子を窺《うかご》うて居るのは彼《か》の遠山權六で、曩《さき》に松蔭の家来有助を取って押えたが、松蔭がお羽振が宜《い》いので、事を問糺《といたゞ》さず、無闇に人を引括《ひっくゝ》り、上《かみ》へ手数を掛け、何も弁《わきま》えん奴だと權六は遠慮を申付けられました、遠慮というのは禁錮《おしこめ》の事ですが、權六|些《ちと》とも[#「些《ちと》とも」は「些《ち》とも」「些《ちっ》とも」などの誤記か]遠慮をしません、相変らず夜々《よな/\》のそ/\出てお庭を見巡《みまわ》って居りますので、今權六が屈《かゞ》んで見て居りますと、犬がグック/\と苦しみ、ウーンワン/\と忌《いや》な声で吠《ほ》える、暫く悶《もが》いて居りましたが、ガバ/\/\と泡のような物を吐いて土をむしり木の根方へ頭をこすり附けて横っ倒しに斃《たお》れるのを見て、怪しの侍が抜打《ぬきうち》にすうと犬の首を斬落《きりおと》して、懐から紙を取出し、すっかり血を拭《ぬぐ》い、鍔鳴《つばなり》をさせて鞘《さや》に収め、血の附いた紙を藪蔭へ投込んで、すうと行《ゆ》きに
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