でも決して相成りません、私《わたくし》はお手打に成ります、上《かみ》のお手打は元より覚悟、お手打になっても聊《いさゝ》か厭《いと》いはございませんが、水飴は毒なるものと思召《おぼしめ》しまして此の後《ご》も召上らんように願います、仮令《たとい》喜一郎が持って参りましょうとも、水飴を召上る事は相成りません」
紋「何《なん》じゃ何の事じゃ、白痴《たわけ》め」
喜「拙者が持って参った水飴が毒じゃと申すのか、ムヽウ……それじゃア斯う致そう、拙者がお毒味を致そう。上《かみ》お匙《さじ》を拝借致します」
と入物《いれもの》の蓋を取り除《の》けて水飴を取りにかゝるから、川添富彌がはてなと見て居ります。秋月は富彌の顔を見ながら、水飴を箸の端《さき》へ段々と巻揚《まきあ》げるのを膝へ手を置いて御舎弟紋之丞殿が見詰めて居りましたが、口の処へ持って来るから。
紋「喜一郎、毒味には及ばん」
喜「はっ」
紋「もう宜しい、予は水飴は嫌いになった、毒味には及ばん、水飴は取棄てえ」
喜「はッ」
紋「喜一郎が勧めるのも忠義、富彌が止《とゞ》むるも忠義、二人して予を思うてくれる志|辱《かたじけ》なく思うぞ」
喜「ほう」
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