事です、御無礼至極ではござりませんか、殊《こと》に只今お上屋敷からお見舞として下されになった水飴、お咳が出るから召上ろうとする所を、奪《と》ってお庭へ棄てるとは何事です」
富「いえ、これは棄てます」
紋「富彌、此の水飴はお兄様《あにいさま》がな咳が出るからと云って養いに遣《つか》わされた水飴を、何故《なぜ》其の方は庭へ棄てた」
富「いえ仮令《たとい》お上屋敷から参りましても、天子《てんし》将軍から参りましても此の水飴は富彌|屹度《きっと》棄てます」
紋「何うか致したな此奴《こやつ》は……これ其の方は予が口へ入れようとした水飴を庭へ棄てた上からは、取りも直さず予とお兄様を庭へ投出したも同様であるぞ、品物は構わんが、折角お心入れの品を投げ棄てたからは主人を投げたも同じ事じゃ」
富「へえ重々恐入ります、其の段は誠に恐入りましたが、水飴を召上る事は決して相成りません」
紋「何故ならん」
富「何でも相成りません」
紋「余程|此奴《こやつ》は何うかいたして居《お》る、無礼至極の奴じゃ」
富「御無礼は承知して居ります、甚《はなは》だ相済みません事と存じながら、お毒でござるによって上げられません」

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