だ、それを承知で証文へ判を押して奉公に来たのじゃアないか、それに粗相でゞもある事か、先祖より遺言状の添えてある大切の宝を打砕《うちくだ》き、糊付にして毀さん振をして、箱の中に入れて置く心底《しんてい》が何うも憎いから、指を切るのが否《いや》なれば頬辺《ほッぺた》を切って遣《や》る」
母「何卒《どうぞ》御勘弁を……」
と泣声にて、
「顔へ疵《きず》が附きましては婿取前の一人娘で、何う致す事も出来ません」
長「指を切っては内職が出来んと云うから面《つら》を切ろうと云うんだ、疵が出来たって、後《あと》で膏薬を貼れば癒る、指より顔の方を切ってやろう」
と長助が小刀《ちいさがたな》をすらりと引抜いた時に、驚いて丹治が前へ膝行《すさ》り出まして、
丹「何卒《どうぞ》お待ちなすって下せえまし」
長「何だ、退《の》け/\」
丹「お前さまは飛んだお方だアよ」
長「何が飛んだ人だ」
丹「成程証文は致しやしただけれども、人の頬辺《ほッぺた》を切るてえなア無《ね》え事です」
長「手前は何のために受人に成って、印形《いんぎょう》を捺《つ》いた」
丹「印形だって、是程に厳《やかま》しかアねえと思ったから、印形
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