を捺きやした、ほんの掟《おきて》で、一寸《ちょっと》小指へ疵を附けるぐれえだアと思いやしたが、指を打切《ぶっき》られると此の後《のち》内職が出来ません、と云って無闇に頬辺なんて、どう云うはずみで鼻でも落したらそれこそ大変だ、情ねえ事で、嬢さんの代りに私《わし》を切っておくんなせえ」
長「いや手前を切る約束の証文ではない、白痴《たわけ》た事を云うな、何のための受人だ」
丹「受人だから私《わし》が切られようというのだ」
長「黙れ、証文の表に本人に代って指を切られようと云う文面はないぞ、さ顔を切って遣る」
と丹治と母を突きのけ、既に庭下駄を穿《は》いて下《お》りにかゝるを、母は是れを遮《さえぎ》り止めようと致すを、千代が、
千「お母様《っかさま》、是れには種々《いろ/\》理由《わけ》がありますんで、私《わたくし》が少し云い過ぎた事が有りまして、斯《こ》う云う事に成りまして済みませんが、お諦め遊ばして下さいまし、さア指の方は内職に障って母を養う事が出来ませんから顔の方を……」
長「うん、顔《つら》の方か、此方《こっち》の所望《のぞみ》だ」
作「これ/\長助、顔を切るのは止せ」
長「なに宜しい
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