すように最《い》と凄《すさ》まじく流れ、左手《ゆんで》の方《かた》を見ると高山《こうざん》峨々《がゞ》として実に屏風を建てたる如く、誠に恐ろしい山で、樹《き》は生茂《おいしげ》り、熊笹が地を掩《おお》うている、道なき所を踏分け/\段々|下《お》りて来たところが、人家は絶《たえ》てなし、雨は降ってくる、困ったことだと思い、暫く考えたが路《みち》は知らず、深更《しんこう》に及んで狼にでも出られちゃア猶更と大きに心配した、時は丁度秋の末《すえ》さ、すると向うにちら/\と見える」
○「へえー、出たんでござえやすか、狼の眼は鏡のように光るてえから、貴方がうんと立止って小便《ちょうず》をなすったろう」
侍「なに、小便《ちょうず》などを為《し》やアせん」
○「それから」
侍「これは困ったものじゃ、彼処《あすこ》に誰か焚火《たきび》でもして居るのじゃアないかと思った」
○「成程山賊が居て身ぐるみ脱いでけてえと、お前さん引《ひっ》こぬいて斬ったんで」
侍「まゝ黙ってお聞き、そう先走られると何方《どっち》が話すのだか分らん、山賊が団楽坐《くるまざ》になっていたのではない、一軒の白屋《くずや》があった」

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