云って逃げにかゝる所へ如意で打ってかゝったから堪《たま》らんと存じまして、刄物で切ってかゝるのを、胆《たん》の据《すわ》った坊さんだから少しも驚かず、刄物の光が眼の先へ見えたから引外《ひっぱず》し、如意で刄物を打落し、猿臂《えんぴ》を延《のば》して逆に押《おさ》え付け、片膝を曲者の脊中へ乗掛《のっか》け、
僧「やい太い奴だ、これ苟《かりそ》めにも旅籠《はたご》を取れば客だぞ、其の客へ対して恋慕を仕掛けるのみならず、刄物などを以て脅して情慾を遂《と》げんとは不埓至極の奴だ、これ宿屋の亭主は居らんか、灯火《あかり》を早く……」
という処へ帰って来ましたのはお竹で。
竹「おや何で」
僧「む、お怪我はないか」
竹「はい、私《わたくし》は怪我はございませんが、何でございます」
僧「恋慕を仕掛けた宿屋の忰が、刄物を持って来て貴方に迫り、わっという声に驚いて眼をさまして来ました、早く灯火《あかり》を……廊下へ出れば手水場《ちょうずば》に灯火がある」
という中《うち》に雇婆《やといばあ》さんが火を点《とぼ》して来ましたから、見ると大の男が乗掛《のッかゝ》って床《とこ》が血みどりになって居ります。
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