僧「此奴《こいつ》被《かぶ》り物《もの》を脱《と》れ」
 と被っている手拭を取ると、早四郎ではありませんで、此処《こゝ》の主人《あるじ》、胡麻塩交《ごましおまじ》りのぶっつり切ったような髷《まげ》の髪先《はけさき》の散《ちら》ばった天窓《あたま》で、お竹の無事な姿を見て、えゝと驚いてしかみ面《つら》をして居ります。
僧「お前は此の宿屋の亭主か」
五「はい」
竹「何うしてお前は刄物を持って私の部屋へ来て此様《こん》な事をおしだか」
五「はい/\」
 とお竹に向って、
五「あ…貴方はお達者でいらっしゃいますか、そうして此の床の中には誰がいますの」
 と布団を引剥《ひっぱ》いで見ますと、今年二十五になります現在|己《おのれ》の実子早四郎が俯伏《うつぷし》になり、血《のり》に染って息が絶えているのを見ますと、五平は驚いたの何《なん》のではございません、真蒼《まっさお》になって、
五「あゝ是は忰でございます、私《わし》の忰が何うして此の床の中に居りましたろう」
僧「何うして居たもないものだ、お前が殺して置きながら、お前はまア此者《これ》が何《ど》の様《よう》な悪い事をしたか知らんが、本当の子か、
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