て無理無体に恋慕を云い掛けられるのも忌《いや》な事であると、庭の処から洪願寺の森を見ますと、生垣の外にぬうと立っている人があります。男か女か分りませんが、頻《しき》りと手を出してお出《いで》/\をしてお竹を招く様子、腰を屈《かゞ》めて辞儀をいたし、また立上って手招ぎをいたします。
竹「はてな、私を手招ぎをして呼ぶ人はない訳だが……男の様子だな、事によったら敵《かたき》の手係りが知れて、人に知れんように弟《おとゝ》が忍んで私に会いに来たことか、それとも屋敷から内々《ない/\》音信《たより》でもあった事か」
 と思わず褄《つま》を取りまして、其処《そこ》に有合せた庭草履を穿《は》いて彼《か》の生垣の処へ出て見ると、十間ばかり先の草原《くさばら》に立って居りまして、頻りと招く様子ゆえお竹は、はてな……と怪しみながら又跡を慕ってまいりますと、又男が後《あと》へ退《さが》って手招きをするので、思わず知らずお竹は畠続きに洪願寺の墓場まで参りますと、新墓《しんばか》には光岸浄達信士という卒塔婆《そとば》が立って樒《しきみ》が上《あが》って、茶碗に手向《たむけ》の水がありますから、あゝ私ゃア何うして此
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