お死去《かくれ》になってあなた一人残り、一人旅は極《ごく》厳《やか》ましゅうございまして、え、横川《よこかわ》の関所の所《とこ》も貴方はお手形が有りましょう、越えて入らっしゃいましたから、私どもでも安心はして居りますが、何しろ御病気の中だから、毎朝宿賃を頂戴いたす筈ですが、それも御遠慮申して、医者の薬礼お買物の立替え、何や彼《か》やの御勘定《ごかんじょう》が余程|溜《たま》って居ります、それも長旅の事で、無いと仰しゃれば仕方が無いから、へえと云うだけの事で、宿屋も一晩泊れば安いもので、長く泊れば此んな高いものはありません、就《つい》ては一国なことを申すようですが、泊って入らっしゃるよりお立ちになった方がお徳だろうし、私も其の方が仕合せで、どうか一先《ひとま》ず立って戴きたいもので」
竹「はい、私《わたくし》はさっぱり何事も家来どもに任して置きました内に病気附きましたので、つい宿賃も差上げることを失念致した理由《わけ》でもございませんが、病人にかまけて大きに遅うなりました、嘸《さぞ》かし御心配で、胡乱《うろん》の者と思召《おぼしめ》すかは知りませんが、宿賃ぐらいな金子は有るかも知れません
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