…しま蛇もなく」
久「えゝ、お前様の姿が赤蜻蛉《あかとんぼ》の眼の先へちら/\いたし候《そろ》」
早「何ういう訳だ」
久「蜻蛉《とんぼう》の出る時分に野良《のら》へ出て見ろ、赤蜻蛉《あかとんぼ》が彼方《あっち》へ往《い》ったり此方《こっち》へ往ったり、目まぐらしくって歩けねえからよ」
早「成程……ちら/\いたし候《そろ》」
久「えゝと、待てよ……お前と夫婦《みょうと》になるなれば、私《わし》は表で馬追《むまお》い虫、お前は内で機織虫《はたおりむし》よ」
早「成程……私《わし》は馬《うま》を曳《ひ》いて、女子《おなご》が機を織るだな」

久「えゝ…股へ蛭《ひる》の吸付いたと同様お前の側を離れ申さず候《そろ》、と情合《じょうあい》だから書けよ」
早「成程……お前の側を離れ申さず候《そろ》か、成程情合だね」
久「えゝ、虻《あぶ》蚊|馬蠅《むまばえ》屁放虫《へっぴりむし》」
早「虻蚊馬蠅屁放虫」
久「取着かれたら因果、晩げえ私《わし》を松虫なら」
早「……晩げえ私《わし》を松虫なら」
久「藪蚊《やぶか》のように寝床まで飛んでめえり」
早「藪蚊のように寝床まで飛んでめえり」
久「直様《すぐさま》
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