こ、草鞋《わらじ》を脱がして、汚《きたね》え物を手に受けて、湯う沸《わか》して脊中を流してやったり、皆《みんな》家《うち》の為と思ってしているだ、脛咬りだ/\てえのは止《よ》してくんろえ」
五「えゝい喧《やかま》しいやい」
と流石《さすが》に鶴の一声《ひとこえ》で早四郎も黙ってしまいました。此の甲州屋には始終|極《きま》った奉公人と申す者は居りません、其の晩の都合によって、客が多ければ村の婆さんだの、宿外《しゅくはず》れの女などを雇います。七十ばかりになる腰の曲った婆さんが
婆「はい、御免なせえまし」
五「おい婆さん大きに御苦労よ、お前《まえ》又晩に来てくんろよ、客の泊りも無いが、又晩には遊《あす》んで居るだろうから、ま来なよ」
婆「はい、あの只今ね彼処《あすこ》のそれ二人連《ふたりづれ》の病人の処《とこ》へめえりました」
五「おゝ、お前《めえ》が行ってくれねえと、先方《むこう》でも困るんだ」
婆「それが年のいかない娘子《あまっこ》一人で看病するだから、病人は男だし、手水《ちょうず》に行くたって大騒ぎで、誠に可愛想でがんすが、只《たっ》た今おっ死《ち》にましたよ」
五「え、死んだと…
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