忠「長らく御恩になりました」
 と見上げる眼に泪《なみだ》を溜《た》めて居りますから、耐《こら》えかねてお竹も、
竹「わア」
 と枕元へ泣伏しました。此の家《うち》の息子が誠に親切に時々|諸方《ほう/″\》へ往《い》っちゃア、旨い物と云って田舎の事だから碌な物もありませんが、喰物《くいもの》を見附けて来ては病人に遣《や》ります。宿屋の親父は五平《ごへい》と云って、年五十九で、江戸を喰詰《くいつ》め、甲州あたりへ行って放蕩《ばか》をやった人間でございます。忰《せがれ》は此の地で生立《おいたっ》た者ゆえ質朴なところがあります。
忰「父《とっ》さま、今帰ったよ」
五「何処《どこ》へ行ってた」
忰「なに医者の処へ薬を取りに行って聞いたが、医者|殿《どん》が彼《あ》の病人はむずかしいと云っただ」
五「困ったのう、二人旅だから泊めたけれども、男の方は亭主だか何だか分らねえが、彼《あれ》がお前《めえ》死んでしまえば、跡へ残るのは彼《あ》の小娘だ、長《なげ》え間これ泊めて置いたから、病人の中へ宿賃の催促もされねえから、仕方なしに遠慮していたけんど、医者様の薬礼《やくれい》から宿賃や何かまで、彼《あ》の
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