それ捉《つら》まれ」
と右の手を出して、
有「へえ有難う」
とひょろ/\蹌《よろ》けながら肩へ捉《つら》まる。
權「確《しっ》かりしろい」
有「へえ」
と云いながら懐よりすらりと短刀を抜いて權六の肋《あばら》を目懸けてプツーり突掛けると、早くも身を躱《かわ》して、
權「此の野郎」
と其の手を押えました。手首を押えられて有助は身体が痺《しび》れて動けません力のある人はひどいもので。併《しか》し直《すぐ》に役所へ引いて行《ゆ》かずに、權六が自分の宅《たく》へ引いて来たは、何か深い了簡あってのことゝ見えます。此のお話は暫《しばら》く措《お》きまして、是から信濃国《しなのゝくに》の上田|在《ざい》中の条に居ります、渡邊祖五郎と姉の娘お竹で、お竹は大病《たいびょう》で、田舎へ来ては勝手が変り、何かにつけて心配勝ち、左《さ》なきだに病身のお竹、遂に癪の病を引出しました。大した病気ではないが、キヤキヤと始終痛みます。祖五郎も心配致しています所へ手紙が届きました。披《ひら》いて見ますと、神原四郎治からの書状でございます。渡邊祖五郎殿という表書《うわがき》、只今のように二日目に来るなどという訳に
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