来ずよ、旨く行《ゆ》けば此の上なしだ、出来損ねたところが元々じゃアないか」
有「成程……行《や》って見ましょうが、彼《あ》の野郎を殺《や》るのには何か刄物が無ければいけませんな」
大「待てよ、人の目に立たん証拠にならん手前の持ちそうな短刀がある、さ、これをやろう、見掛は悪くっても中々切れる、関《せき》の兼吉《かねよし》だ、やりそくなってはいかんぞ」
有「へえ宜しゅうごぜえます」
大「闇の晩が宜《よ》いの」
有「闇の晩、へえ/\」
大「小遣をやるから手前今晩の中《うち》屋敷を出てしまえ」
有「へえ」
 と金と短刀を受取って、お馬場口から出て行《ゆ》きました。

        三十

 さて二の午《うま》も済みまして、二月の末になりまして、大きに暖気に相成りました。御舎弟紋之丞様は大した御病気ではないが、如何《いか》にも癇が昂《たか》ぶって居ります。夜詰《よづめ》の御家来も多勢《おおぜい》附いて居ります、其の中には悪い家来が、間《ま》が宜《よ》くば毒殺をしようか、或《あるい》は縁の下から忍び込んで、殺してしまう目論見《もくろみ》があると知って、忠義な御家来の注意で、お畳の中へ銅板《あかゞ
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