《こしら》え、印半纏《しるしばんてん》を着まして、日の暮々《くれ/″\》に屋敷へ入込《いりこ》んで、灯火《あかり》の点《つ》かん前にお稲荷様の傍《そば》に設けた囃子屋台《はやしやたい》の下に隠れている内に、段々日が暮れましたから、町の者は亥刻《よつ》[#「亥刻」は底本では「戌刻」]になると屋敷内へ入れんように致します。灯火《あかり》も忽《たちま》ち消しまして静かになりました。是から人の引込《ひっこ》むまでと有助は身を潜《かゞ》めて居りますと、上野の丑刻《やつ》の鐘がボーン/\と聞える、そっと脱出《ぬけだ》して四辺《あたり》を見廻すと、仲間衆《ちゅうげんしゅう》の歩いている様子も無いから、
有「占《し》めた」
と呟《つぶや》きながらお馬場口へかゝって、裏手へ廻り、勝手は宜く存じている有助、主人松蔭大藏方へ忍び込んで、縁側の方へ廻って来ると、烟草盆を烟管《きせる》でぽん/\と叩く音。
有「占めた」
と云うので有助が雨戸の所を指先でとん/\とん/\と叩きますと、大藏が、
大「今開けるぞ、誰も居らんから心配せんでも宜《よ》い、有助今開けるぞ」
と云われて有助は驚きました。
有「去年の九月
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