の上ではありますが、一体忠義の人でございますから、屋敷内に怪しい奴が忍び込むは盗賊か何だか分りませんから、
梅「曲者《くせもの》待て」
 と云いながら領上《えりがみ》を捕《とら》える。曲者は無理に振払おうとする機《はず》みに文箱《ふばこ》の太い紐に手をかけ、此方《こなた》は取ろうとする、彼《か》の者は取られまいとする、引合うはずみにぶつりと封じは切れて、文箱の蓋《ふた》もろともに落たる密書、曲者はこれを取られてはならんと一生懸命に取返しにかゝる、遣《や》るまいと争う機みに、何ういう拍子か手紙の半《なかば》を引裂《ひっさ》いて、ずんと力足《ちからあし》を踏むと、男はころ/\/\とーんと幡随院の崖縁《がけべり》へ転がり落ちました。其の時耳近く。
廻「八《や》つでございまアす」
 と云う廻りの声に驚き引裂《ひきさ》いた手紙を懐中して、春部梅三郎は若江の手を取って柵を押分け、身体を横にいたし、漸《ようよ》うの事で此処《こゝ》を出て、川を渡り、一生懸命にとっとゝ団子坂《だんござか》の方へ逃げて、それから白山通《はくさんどお》りへ出まして、駕籠《かご》を雇い板橋《いたばし》へ一泊して、翌日|出立《
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