の両人は忍ぶ身の上ゆえ、怖い恐ろしいも忘れて檜《ひのき》の植込《うえごみ》の一叢《ひとむら》茂る藪の中へ身を縮め、息をこらして匿《かく》れて居りますと、顔を包んだ侍が大小を落差《おとしざし》にいたして、尻からげに草履《ぞうり》を穿《は》いたなり、つか/\/\と参り、
大「これ有助」
有「へえ、これを彼《か》の人に上げてくれと仰しゃるので、へい/\首尾は十分でございましたな」
大「うん、手前は之を持って、予《かね》ての通り道灌山《どうかんやま》へ往《い》くのだ」
有「へい宜しゅうございます、文箱《ふばこ》で」
大「うん、取落さんように致せ、此の柵を脱《ぬ》けて川を渡るのだ、水の中へ落してはならんぞ」
有「へえ/\大丈夫で」
大「仕損ずるといけんよ」
有「宜しゅうございます」
と低声《こゞえ》でいうから判然《はっきり》は分りませんが、怪しい奴と思って居ります内に、彼《か》の侍はすっと何《いず》れへか往ってしまいました。チョンチョン/\/\。
廻「丑刻《やつ》でございます」
と云う廻りの声にて、先の仲間体の男は驚き慌てゝ柵を潜《くゞ》って出る。春部は浮気をして情婦《おんな》を連れ逃げる身
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