ては別に往来《ゆきゝ》もない処で、人目にかゝる気遣いはないからというので、是から合図をして藪蔭へ潜《くゞ》り込み、
若「春部さま」
梅「あい、私《わし》は誠に心配で」
若「私《わたくし》も一生懸命に信心をいたしまして、貴方と御一緒に此の外へ出てしまえば、何様《どん》な事でも宜しゅうございますけれども、お屋敷にいる内に私が捕《つかま》りますと、貴方のお身に及ぶと存じて、本当に私は心配いたしましたが、宜《よ》く入らしって下さいました」
梅「まだ廻りの来る刻限には些《ちっ》と早い、さ、これを下りると川端である、柵が古くなっているから、直《じき》に折れるよ、裾《すそ》をもっと端折《はしょ》らにゃアいかん、危いよ」
若「はい、畏《かしこま》りました、貴方宜しゅうございますか」
梅「私《わし》は大丈夫だ、此方《こちら》へお出《い》でなさい」
と是から二人ともになだれの崖縁《がけべり》を下《お》りにかゝると、手拭ですっぽり顔を包み、紺の看板に真鍮巻《しんちゅうまき》の木刀を差した仲間体《ちゅうげんてい》の男が、手に何か持って立って居《い》る様子、其所《そこ》へ又一人顔を包んだ侍が出て来る。若江春部
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