程|夜《よ》も更けましたが、お客の帰った跡の取片付けを下役に申付けまして、自分は御前を下《さが》り、小梅のお屋敷を出ますと、浅草寺《あさくさ》の亥刻《よつ》の鐘が聞えます。全体此の日は船上忠平も供をして参っておったところが、急に渡邊の宅《たく》から手紙で、嬢様が少しお癪気《しゃくけ》だと申してまいりました。嬢様の御病気を看病致すには、慣れたものが居《お》らんければ不都合ゆえ、織江が忠平に其の手紙を見せまして、先へ忠平を帰しましたから、米藏《よねぞう》という老僕《おやじ》に提灯を持たして小梅の御中屋敷を立出《たちい》で、吾妻橋《あずまばし》を渡って田原町《たわらまち》から東本願寺へ突当《つきあた》って右に曲り、それから裏手へまいり、反圃《たんぼ》の海禅寺《かいぜんじ》の前を通りまして山崎町《やまざきちょう》へ出まして、上野の山内《さんない》を抜け、谷中門へ出て、直ぐ左へ曲って是から只今角に石屋のあります処から又|後《あと》へ少し戻って、細い横町《よこちょう》を入ると、谷中の瑞林寺《ずいりんじ》という法華寺《ほっけでら》があります、今三浦の屋敷へ程近い処まで来ると、突然《だしぬけ》に飛出し
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