も聞いていそうなものだったのう」
忠「噂にも聞いた事がございません、そんなれば林藏という男が美男《びなん》という訳でもなし、彼《あ》の通りの醜男子《ぶおとこ》、それと斯ういう訳になろうとは合点がまいりません、お父《とっ》さん、ねえ少《ちい》さいうちから妹は其様《そん》な了簡の女ではないのです、何か是には深い訳があるだろうと思います」
 と互に顔を見合せましたが、親父の岩吉には尚《な》お理由《わけ》が分りませんから、
岩「訳だって私《わし》にはどうも分らん、林藏さんと斯ういう事になろう筈がないと申すは、旦那さま、此の間菊へ一寸《ちょっと》お暇を下さいました時に、宅へまいりましたから、早く帰んなよ、然《そ》うしないと旦那様に済まねえよ、親元に何時《いつ》までもぐず/\して居てはならないと申したら、お父《とっ》さん、私はと何か云い難《にく》い事がある様子で、ぐず/\して居ましたが、何方《どなた》もいらっしゃいませんからお話を致しますが、お父さん、私は浮気じゃアないが、私のような者でも旦那様が別段お目をかけて下さいますよと云いますから、お前を奉公人の内で一番目をかけて下さるのか、然うじゃアない
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